2025年4月30日
防災はオーダーメイドの時代に。企業のリスクに合わせた備え方を徹底解説

東京・神奈川など首都圏の中小企業では、地震や台風などへの備えが重要な課題です。しかし、防災担当者や総務担当者の中には、「市販の防災セットを用意したけれど、これで十分なのか? 自社の状況に合っているのか?」と不安を感じている方も多いでしょう。
近年、災害リスクの多様化に伴い、各企業の実情に合わせて備えを見直す動きが活発化しています。そこで注目されているのが「オーダーメイドの防災対策」です。本記事では、オーダーメイド防災対策の必要性や具体的な内容、導入の流れや費用、そして今すぐ取り組めることについて、初心者にもわかりやすく専門的な観点も交えながら解説します。自社に最適な防災対策を検討する際の参考にしてください。
オーダーメイドの防災対策とは
オーダーメイドの防災対策とは、各企業の状況やニーズに合わせて防災対策をカスタマイズすること。市販の防災セットではなく、自社に必要な物資や仕組みを選び、独自の備えを整えるアプローチです。
既製品の防災セットとの違い
既製品の防災セットは、広く一般向けに内容が定められていて、手軽に購入できる反面、各企業の個別事情までは考慮されていません。たとえば市販セットには最低限の食料や水、簡易トイレ、毛布などが一通り含まれていますが、その分量や種類は平均的な想定に基づいたものです。
そのため、自社の従業員数や特有のニーズに対して不足や過剰が生じる可能性があります。 一方、オーダーメイドの防災対策では、自社に本当に必要なものを取捨選択できます。必要に応じて防災用品の種類を追加したり、逆に不要な物を省いたりできるため、ムダのない備えが可能です。
また、既製品では品質や仕様が一律に決められていますが、オーダーメイドでは信頼性の高いメーカーの製品を選ぶ、保存期間の長い食品を選定するといった柔軟な対応もできます。「ちょうど良い備え」を実現できる点が、既製品との大きな違いです。
企業ごとのリスクに合わせたカスタマイズ
オーダーメイドの防災対策では、各企業の置かれた状況や立地に応じて備えを最適化できます。例えば沿岸部にある事業所では津波や高潮への対策が欠かせませんし、河川近くに位置する場合は浸水や水害への備えが重要です。
また、高層ビル内のオフィスであれば、エレベーター停止や長時間の停電に備えて照明や非常用電源、十分な飲料水・簡易トイレの確保が求められます。さらに、工場など特殊な設備を持つ職場では、火災や化学物質漏えいなど独自のリスクも想定し、それに対応した防護具や非常設備を用意する必要があるでしょう。
このように企業ごとに直面しうる災害リスクは異なるため、オーダーメイドで対策をカスタマイズすることで「自社ならではの備え」を実現できます。
なぜ今、オーダーメイドの防災対策なのか?

近年、気候変動の影響もあり豪雨災害や大型台風が頻発し、地震だけでなく水害や土砂災害など様々な種類の災害リスクが高まっています。実際に毎年のように各地で記録的な大雨による浸水被害や長期停電が発生していて、従来の「地震対策中心」の備えだけでは不十分なケースが増えました。
また、新型コロナウイルス感染症の流行を経て、避難生活における衛生用品の重要性や、人が密集しない備蓄配置の工夫など新たな視点も求められるようになっています。このようにリスクが多様化・深刻化する中、自社の状況に合わせて防災対策を見直す企業が増えていて、オーダーメイドの防災対策が注目を集めています。
業種・職場環境ごとに異なる必要物資
必要な防災用品は業種や職場環境によって大きく異なります。例えば製造業の工場では、安全ヘルメットや防じんマスク、厚手の手袋など作業中の事故や粉じんから身を守るための用品が不可欠です。
一方オフィスでは、通信・電源確保のため携帯充電池やラジオなどが重視されます。職場の種類と環境に応じて必要な物資は変わるため、自社の実態に即した備蓄内容を検討することが重要です。
従業員数や所在地に応じた対応
従業員の人数規模に応じて、防災対策のとり方も変わってきます。社員数が多ければ備蓄すべき非常食や水の量も増え、保管スペースや管理の手間も大きくなります。全員分の食料と水、必要物資を確保するには、人数に合わせた計画が欠かせません。
また、従業員の増減があった際には、それに応じて備蓄量を見直す必要があります。 さらに、会社の所在地によっても備え方は変わります。首都圏のように多くの従業員が遠方から通勤している場合、大地震発生時には交通網の寸断で帰宅困難者となることが想定されるため、社内で 3 日以上過ごせるだけの備蓄が求められます。
一方、郊外や地方で自家用車通勤が主な企業では、社員が車内で避難するケースも考慮し、車載用の防災セットを準備するといった対応が有効でしょう。従業員数や所在地の条件に合わせて、適切な備えの形を選ぶことが重要です。
BCP(事業継続計画)との整合性
BCP(事業継続計画)で定めた事業継続方針と、防災 対策を連携させることも重要です。たとえば、BCPで社員を 72 時間社内待機と定めているなら、それに必要な水・食料を備蓄し、予備電源の確保を計画しているなら非常用発電機や蓄電池を用意するといった具合に、BCPの内容に沿って備えを整えます。BCPに即した備えがあれば、非常時にも計画通りに行動しやすくなり、事業継続の可能性が高まります。
オーダーメイド防災のカスタマイズ内容

では、オーダーメイドの防災対策では具体的にどのような点をカスタマイズできるのでしょうか。備蓄品の中身から収納形式、配布方法に至るまで、主なカスタマイズ項目を解説します。
備蓄品の選定(食料・水・衛生用品・医療品など)
備蓄品を選定する際は、食料・飲料水・衛生用品・医療品といった複数のカテゴリーをバランスよく用意することが大切です。食料であれば栄養バランスや食べやすさを考慮し、アルファ米やビスケット、缶入りパンなど長期保存可能なものを選びます。飲料水も1人あたり1日3リットル程度を目安に、最低3日分以上を確保します。
衛生用品としては、簡易トイレ( 凝固剤付きの排泄処理袋)やトイレットペーパー、ウェットティッシュ、女性用生理用品などを備えておくと安心です。医療品については、絆創膏や消毒液、常備薬のほか、必要に応じて簡易担架や三角巾など救急セットを用意します。
また、懐中電灯や予備電池、携帯ラジオ、軍手、使い捨てカイロなど、その他の必需品も忘れずにリストアップし、漏れのないよう選定しましょう。オーダーメイドの防災対策では、これらの品目を専門家と相談しながら社内のニーズに合った種類と量を決めることができます。
アレルギー対応・ハラール対応などの個別配慮
企業内には、食物アレルギーを持つ従業員や宗教上の理由で食べられないものがある従業員がいる場合もあります。オーダーメイド防災では、こうした個別の事情にも対応した備蓄が可能です。
例えば小麦アレルギーの人がいるなら小麦を含まない食品(米粉パンやアルファ米など)を用意したり、乳製品アレルギーの人のために代替品を選ぶことができます。ピーナッツなど特定食品に対するアレルギーがある場合は、それを含まない非常食に差し替えましょう。
また、イスラム教徒の従業員がいる場合は、ハラール認証を受けた非常食や豚肉・アルコール不使用のメニューを選定することが重要です。
同様に、ベジタリアンの方がいるなら肉類を使わない食品を備蓄する配慮も考えられます。オーダーメイドであれば事前に従業員のアレルギーや嗜好をヒアリングした上で、全員が安心して口にできる備蓄品を揃えることができます。
リュック型、防災キャビネット型などの収納形式
防災用品の収納形式もカスタマイズのポイントです。大きく分けて、各従業員が非常用リュックを持つ「リュック型」と、オフィスに専用の収納庫を設置して備蓄品をまとめて保管する「防災キャビネット型」があります。
リュック型は、一人ひとりが必要物資を入れたバッグを自席やロッカーに備えておく方式で、いざという時に各自が持ち出しやすい利点があります。避難の際にすぐ持って行けるため機動性が高い反面、普段から各リュックの中身を点検・補充する手間がかかります。
一方、防災キャビネット型は、社内の一箇所に大容量の収納棚やロッカーを置き、全員分の備蓄品を集中管理する方式です。一括管理のため定期点検が比較的容易で、飲料水など重い物資もまとめて保管しやすい利点があります。
ただし、災害発生時にはそのキャビネットの場所まで取りに行く必要があり、状況によっては取り出しにくいケースも考えられます。オーダーメイドの防災対策では、自社のオフィスレイアウトやスペース、従業員の動線を踏まえて最適な収納形式を選択できます。必要に応じてリュック型とキャビネット型を併用し、持ち出し用と社内待機用に分けて備蓄することも可能です。
従業員への配布型 or 事務所常備型
防災用品の管理方法として、各従業員に個別のセットを配布する「配布型」と、会社が一括して備蓄品を管理する「事務所常備型」があります。配布型の場合、従業員一人ひとりが自分の防災セットを常に手元に置いて管理します。オフィスのロッカーやデスクに保管しておく形です。
この形式では従業員が通勤途中や在宅時に災害に遭った場合でも、自宅に非常用キットがあれば対応しやすいでしょう。ただし、全員に配布するため初期コストがかさみやすく、備蓄品の管理が各自の自己責任となるため、準備状況にばらつきが出るリスクもあります。
一方、事務所常備型では防災用品を会社が一括して管理し、事務所内の決まった場所に備蓄します。管理を専門の担当者がまとめて行えるため効率的です。
災害時には担当者や防災委員が中心となって備蓄品を取り出し、従業員に配布・使用します。オーダーメイドの防災対策では、自社の方針に合わせて配布型・常備型のいずれか、または両者の組み合わせで最適な計画を策定できます。
導入の流れとポイント

では、オーダーメイドで防災対策をする際は、どのような流れで進めていけばいいのでしょうか?ポイントとあわせて解説します。
現状分析・ヒアリング
まず初めに、自社の現状把握とニーズのヒアリングを行います。専門の防災コンサルタントや防災士がサポートする場合は、現地調査やヒアリングを通じて会社の状況を詳細に分析してくれます。
具体的には、社屋やオフィスの立地条件(周囲の災害リスクや建物の耐震性など)の確認、現在備蓄されている防災用品や設備の有無、従業員の人数や構成(部署ごとの配置や要配慮者の有無)などを洗い出します。
また、過去に経験した災害や今抱えている不安点、災害発生時に何日間事業を維持したいかといった要望もヒアリングします。
プラン提案・見積もり
現状分析を踏まえた上で、防災対策のプランを提案します。提案内容には、推奨される備蓄品のリストや数量、収納方法(リュック型かキャビネット型かなど)、配布方法、維持管理の方法まで含まれます。企業の予算や方針に応じて、複数のプランを比較検討できるよう提案されることもあります。
プラン提案を受けた企業側は、その内容が自社のニーズや BCP に合致しているか、過不足はないかを確認します。不明点はこの段階で相談し、必要に応じてアイテムの追加・削除や数量の調整を行ってプランをブラッシュアップします。最終的に、費用対効果も考慮しながら、自社に最適なプランを選定します。
納品・設置・運用サポート
プランが決定したら、実際の備蓄品の納品・設置へと進みます。防災用品はメーカーや業者から取り寄せ、計画に沿った数量が会社に納品されます。防災キャビネットなど大型の収納を導入する場合は、指定の設置場所に備品を運び込み、使いやすいよう配置します。
納品・設置後は、運用サポートも重要です。備蓄品は時間の経過とともに消費期限が来るため、定期的な点検と入れ替えが欠かせません。オーダーメイド防災を提供する業者の中には、定期点検サービスや有効期限管理のシステムを提供してくれるところもあります。
例えば、非常食や水の期限が近づいたら事前に通知し、新しい備蓄品との交換を代行してくれる仕組みです。また、社内では防災担当者が中心となり、運用ルール(いつ点検し、誰が管理するか等)を決めて、備蓄品が常に有効な状態に保たれるようにしましょう。
費用感と導入コストの考え方

オーダーメイド防災導入にかかる費用面について、既製品との比較や長期的なコスト、助成金活用の視点から検討します。
既製品との比較
オーダーメイド防災は、既製品の防災セットに比べて費用が高くつくのでは、と心配さ れるかもしれません。たしかに、1人用の市販防災セットは安価なものでは数千円程度から購入できます。それを人数分まとめて購入すれば、一見、オーダーメイドより低コストに感じられるでしょう。
しかし、既製品には含まれていない用品(例えばアレルギー対応の非常食や追加の水など)を別途購入したり、自社には不要な物がセットに含まれていて無駄になる可能性もあります。オーダーメイドでは、初期にコンサルティング費用やプランニングの手間がかかりますが、その分、本当に必要な物だけをまとめて調達できるため、無駄な出費を減らせます。
加えて、オーダーメイドでは品質の高い備蓄品を選べるため、非常時に「備蓄品が使えなかった」というリスクを減らせます。市販の安価なセットに含まれる簡易ライトやラジオが実際には性能不足だった、といった事態を避けられるのは、費用以上の価値と言えるでしょう。
単純な初期費用だけでなく、「いざという時に確実に役立つ備え」を得られる点で、オーダーメイド防災はコストに見合ったメリットがあるのです 。
長期的コストパフォーマンス
長期的なコストパフォーマンスも考慮しましょう。オーダーメイド防災では、品質が高く保存期間の長い備蓄品を選ぶことで、頻繁な入れ替えを減らせます。例えば、水や食品でも 7 年保存可能なものを選べば、従来5年ごとに買い替えていた備蓄を 7 年サイクルに延ばせるため、長期的にはコストを抑えられます。
また、備蓄品の有効期限前に消費して補充する「ローリングストック」も取り入れやすく、計画的に消費・購入を繰り返すことで廃棄ロスを減らせます。期限切れによる無駄を最小限にできれば、備蓄に投じた費用を最大限有効活用でき、結果としてコストパフォーマンスが向上します。
さらに、オーダーメイド防災でしっかり備えておけば、万一災害が起きた際の被害軽減や事業中断期間の短縮につながります。被害が減れば、長期的には備えに投じたコストを上回る価値をもたらす可能性があります。従業員の安全確保と事業継続性の向上とい う観点で、オーダーメイド防災は長期的にも十分に元が取れる投資と言えるでしょう。
助成金・補助金の活用
中小企業が防災対策を強化する際には、国や自治体の助成金・補助金制度を活用できる場合があります。例えば、東京都には「BCP実践促進助成金」といった制度があり、非常用発電装置や備蓄品の購入費用に対して一定額の補助を受けられます。
また、自治体によっては独自に企業の備蓄品購入を支援する制度を設けていることもあります。 こうした公的支援を利用すれば、オーダーメイド防災の導入コストを大きく削減できます。
助成を受けるには申請や計画書の提出が必要になるため、事前に情報を調べ条件に合う制度がないか確認しましょう。上手に助成金・補助金を活用し費用面のハードルを下げることもぜひ検討してください。
オーダーメイドの防災対策を検討する際にやるべきこと

オ ーダーメイド防災の導入を検討し始めた企業が、今すぐ取り組むべきことを整理しておきましょう。リスクの把握から社内の意識づけ、パートナー選びまで、事前に進めておきたいポイントを紹介します。
リスクアセスメントの実施
まずは、自社を取り巻く災害リスクを客観的に洗い出すリスクアセスメントを行いましょう。所在地のハザードマップを確認して、地震の揺れや液状化、洪水・土砂災害などの危険度を把握します。
また、社屋の構造や立地条件(高層ビル内か、海抜の低い場所か等)をチェックし、どのような被害が想定されるか検討します。
加えて、現在の備蓄状況や防災対策を棚卸ししましょう。非常食や水、救急用品がどれだけあるか、非常時のマニュアルや BCP が用意されているか、社員への周知状況はどうか、といった点を点検します。こうしたリスクアセスメントの結果を踏まえて、どこにギャップがあるか、何を強化すべきかが見えてきます。
現状を正しく把握することで、その後のオーダーメイド防災の計画立案がスムーズに進むでしょう。
従業員との防災意識共有
防災対策は担当者だけでなく、従業員一人ひとりの協力が不可欠です。社内で防災に関する意識共有を図りましょう。防災についてのミーティングや研修を開き、災害時の行動手順や会社の方針を周知します。
自分たちの職場にどんなリスクがあるのか、避難経路や避難場所はどこか、備蓄品はどこにあるか、といった基本情報を従業員全員が理解している状態を目指します。
さらに、各従業員には家庭でも最低限の備蓄を持つよう促しましょう。会社での備えに加え、自宅での非常食・水の備蓄や家族との安否確認方法の確認など、個人レベルでできる防災準備も重要です。日頃から防災を意識することで、緊急時にも落ち着いて行動できるようになります。
信頼できる防災パートナーの選定
最後に、オーダーメイドの防災対策を進めるには信頼できるパートナーの選定が重要です。防災分野での知見や実績が豊富な企業に相談することで、適切なアドバイスと支援を受けられます。
候補となる企業のWebサイトや提案資料を確認し、これまでの導入事例や顧客の声をチェックしましょう。防災用品の販売だけでなく、現状分析から提案、納品後のサポートまでワンストップで対応してくれる企業であれば安心です。
また、複数社から提案を取り寄せて比較検討し、価格だけでなく提案内容や対応姿勢も評価しましょう。長く付き合うパートナーとなるため、信頼できると感じられる会社を選ぶことが大切です。
自社に合った防災対策で“守れる備え”を
防災対策に「これで完璧」という正解はありませんが、自社の状況に合わせてカスタマイズした備えを用意しておくことで、非常時に守れるものが格段に増えます。
既製品の防災セットに頼るだけでなく、業種・規模・リスクに応じたオーダーメイド防災を取り入れることは、従業員の安全と会社の存続を守るための心強い保険と言えるでしょう。
災害はいつ起こるか分かりません。リスクを見極め、小さなことからでも着手してみてください。そして、信頼できる専門家の力も借りながら、自社に合った防災対策を構築していきましょう。