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帰宅困難者対策条例で求められる備蓄基準は?基礎知識・必須リストを解説

  • 1月30日
  • 読了時間: 12分
帰宅困難者対策条例で求められる備蓄基準

大規模災害が発生した際、従業員を安全に帰宅させられるか不安を感じていませんか。東京都帰宅困難者対策条例では事業者に対して従業員向けの備蓄を求めていますが、具体的に何をどのくらい準備すればよいのか分からない方も多いでしょう。


そこで本記事では帰宅困難者対策条例における備蓄の基本知識から、必要な備蓄品リストや数量の目安まで詳しく解説します。


帰宅困難者対策条例とは?制定の背景と企業が知るべき基礎知識

帰宅困難者対策条例を理解するためには、まずその制定背景から把握することが重要です。ここでは条例が生まれた経緯と企業が知っておくべき基本事項を解説します。


東日本大震災で浮き彫りになった帰宅困難者問題

平成23年3月11日の東日本大震災では、首都圏において約515万人もの帰宅困難者が発生しました。鉄道などの公共交通機関が運行を停止したことで、駅周辺や道路には帰宅を試みる人々が溢れ、大規模な混雑が生じたのです。


この混乱により、救助・救援活動を行う緊急車両の通行が妨げられる事態も発生。また徒歩で帰宅しようとした人々が余震や建物倒壊などの二次災害に巻き込まれる危険性も明らかになりました。


東京都帰宅困難者対策条例の概要と目的

こうした課題を受けて、東京都は平成24年3月に「東京都帰宅困難者対策条例」を制定しました。この条例は平成25年4月に施行され、「自助」「共助」「公助」の考え方に基づき帰宅困難者対策を総合的に推進することを目的としています。


条例の基本原則は「むやみに移動を開始しない」というものです。首都直下地震などの大規模災害が発生した場合、都内では約453万人の帰宅困難者が発生すると想定されています。そのため災害発生時には職場や学校などで3日間待機する一斉帰宅抑制が推進されているのです。


帰宅困難者対策条例における備蓄基準は?責務と対象範囲

帰宅困難者対策条例では、事業者に対していくつかの責務を定めています。主な内容として、大規模災害発生時に施設の安全性を確認した上で従業員を施設内に待機させること、そして従業員が3日間施設内に留まれるよう必要な物資を備蓄することが挙げられます。


ここで重要なのは、対象となる事業者が大企業に限られていない点です。条例では「事業を行う法人その他の団体または事業を行う場合における個人」と定義されており、中小企業や個人事業主も含まれます。また従業員にはアルバイトや派遣社員も含まれるため、幅

広い範囲での対応が求められているといえるでしょう。


なぜ「3日分」の備蓄が必要なのか?その根拠と意義

なぜ「3日分」の備蓄が必要なのか?

帰宅困難者対策条例では3日分の備蓄を求めていますが、なぜ3日間という期間が設定されているのでしょうか。ここではその根拠と備蓄の重要性について説明します。


災害発生後72時間が人命救助のゴールデンタイム

内閣府のガイドラインでは、発災後3日目まで行政機関は救命救助活動や消火活動などを中心に対応し、発災4日目以降に帰宅困難者の帰宅支援体制へ移行していくとされています。


この期間は「72時間の壁」とも呼ばれ、災害時の人命救助において極めて重要な時間帯です。行政のリソースが救命活動に集中される間、企業は従業員を自社で保護する必要があり、また公共交通機関の復旧にも最低3日間を要すると想定されています。


一斉帰宅がもたらす二次災害のリスク

災害直後に多くの人が一斉に徒歩で帰宅しようとすると、さまざまな問題が発生します。まず道路が人で埋め尽くされることで、警察・消防・自衛隊などの緊急車両が現場に到着できず、人命救助活動に深刻な支障をきたします。


さらに帰宅途中に余震が発生した場合、電柱の倒壊や窓ガラスの落下などで負傷する危険性があります。火災や建物倒壊といった二次災害に巻き込まれるリスクも高まるでしょう。したがって3日間は安全な場所で待機することが、従業員自身の安全を守ることにつながるのです。


従業員を守ることが事業継続の第一歩

備蓄の準備は単なる条例対応ではなく、企業の事業継続にも直結します。労働契約法第5条では、使用者は労働者の生命や身体の安全を確保する義務を負うと定められています。これは安全配慮義務と呼ばれ、災害時においても適用されるものです。


十分な備蓄がなく従業員が無理に帰宅して負傷した場合、企業は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。また従業員の安全が確保されてこそ、災害後の早期事業再開が可能になるでしょう。備蓄への投資は、BCP(事業継続計画)の基盤となる重要な取り組みなのです。


企業が準備すべき備蓄品リスト

ここからは具体的な備蓄品の内容について解説します。内閣府や東京都のガイドラインに基づき、企業が準備すべき品目と数量を見ていきましょう。


必須の備蓄品4項目と具体的な数量

まず最優先で準備すべき備蓄品は、飲料水・食料・簡易トイレ・毛布の4項目です。


飲料水

飲料水については、従業員1人あたり1日3リットルが必要とされています。3日分では9リットルとなり、一般的な2リットルペットボトルで約5本に相当。備蓄用としては5年から15年保存可能な長期保存水を選ぶとよいでしょう。


食料

食料は1人1日3食として3日分で9食が目安です。アルファ化米やクラッカー、缶詰パンなど調理不要で長期保存できるものが適しているでしょう。アルファ化米は水やお湯を注ぐだけで食べられるため、災害時の備蓄食として広く採用されています。


簡易トイレ

簡易トイレは1人1日5回の使用を想定し、3日分で15回分を準備します。大規模災害では上下水道が使用できなくなる可能性があるため、下水を使わない簡易トイレの備蓄は不可欠です。


毛布

毛布や保温シートは1人1枚が基本となります。災害は季節を問わず発生する可能性があり、冬季以外でも夜間の寒さ対策や避難所での体温維持に必要です。圧縮毛布を活用すれば保管スペースを節約できます。


その他重要度の高い備蓄品

基本4項目に加えて、企業が準備しておきたい備蓄品があります。


まず携帯ラジオや懐中電灯、予備の乾電池です。停電時でも情報収集を行い、適切な判断を下すために必要となります。またスマートフォンを充電できるモバイルバッテリーも重要です。


医薬品や救急セットも準備しましょう。解熱剤、胃腸薬、消毒液、包帯、絆創膏などを揃えておくと、軽度のけがや体調不良に対応できます。ただし医薬品には使用期限があるため、定期的な確認と入れ替えが必要です。


衛生用品として、マスク、ウェットティッシュ、トイレットペーパー、生理用品なども用意しておきます。不衛生な環境での避難生活では、感染症のリスクが高まるためです。


従業員数別の備蓄量シミュレーションと保管スペースの確保

従業員数別の備蓄量シミュレーション

備蓄品の全体像が見えたところで、実際に自社で必要となる備蓄量を算出してみましょう。ここでは従業員数別のシミュレーションと保管スペースの考え方を紹介します。


備蓄量の計算方法と10%ルール

基本的な計算式は「従業員数×3日分」となります。たとえば従業員が30人の企業であれば、水は30人×9リットルで270リットル、食料は30人×9食で270食が必要です。


ここで押さえておきたいのが「10%ルール」です。内閣府のガイドラインでは、共助の観点から来客や取引先など施設利用者分として10%程度を上乗せすることを推奨。30人の企業なら33人分、100人なら110人分を準備するイメージです。


従業員数が100人の場合を例に挙げると、110人分の備蓄として水990リットル(2リットルペットボトル495本)、食料990食、簡易トイレ1650回分、毛布110枚という計算になります。


保管スペースの確保と配置の工夫

大量の備蓄品を保管するには、相応のスペースが必要です。100人規模の企業で約3〜5平方メートル程度の保管スペースを確保するのが一般的でしょう。


保管場所を選ぶ際には、いくつかのポイントがあります。まず従業員がすぐに取り出せる場所であることです。災害時に倉庫の奥深くから運び出すのは困難なため、オフィスの各フロアや休憩室、エントランス近くなど、アクセスしやすい場所に配置しましょう。


ただし避難経路を妨げてはいけません。廊下や非常口付近に大量の備蓄品を積み上げると、避難の妨げになる可能性があります。


また耐震性のある棚や保管庫を使用し、倒壊や落下を防ぐ対策も講じてください。浸水リスクを考慮して、地下ではなく1階以上の階に保管することも推奨されます。


スペースに制約がある場合は、分散保管という方法も。各部署やフロアごとに必要量を分けて保管すれば、一箇所に大きなスペースを確保する必要がありません。


賞味期限管理とローリングストック法

備蓄品を準備したら、それで終わりではありません。適切に管理し続けることが、いざという時に備蓄を活用するためのポイントとなります。


賞味期限管理と定期点検の仕組み

飲料水や食料には賞味期限があるため、期限切れを防ぐ管理体制が必要です。まず備蓄品の管理台帳をExcelなどで作成し、品目・数量・保管場所・購入日・賞味期限を記録しましょう。


管理台帳には賞味期限の6ヶ月前にアラートが出るよう設定しておくと便利です。期限が近づいたら計画的に入れ替えを行います。


年に1回以上は全備蓄品の点検を実施してください。防災訓練のタイミングに合わせて実施すると、訓練と管理業務を効率的に行えます。点検時には賞味期限だけでなく、パッケージの破損や保管状態も確認しましょう。


ローリングストック法で無駄を減らす

備蓄品を無駄なく活用する方法として、ローリングストック法があります。これは備蓄品を日常的に少しずつ使いながら、使った分だけ新しく補充していく方式です。


たとえば社内イベントや懇親会で備蓄食料を提供し、その後同数を購入して補充。こうすることで常に新しい状態の備蓄が維持され、賞味期限切れによる廃棄を減らせます。


防災訓練の際に実際に備蓄品を配布・試食することも有効です。従業員が備蓄品の存在を認識し、味や使い勝手を確認できるメリットもあります。またアレルギー対応食品が必要な従業員を把握する機会にもなるでしょう。


努力義務でも備蓄に取り組むべき理由

帰宅困難者対策条例における備蓄は「努力義務」とされており、違反しても罰則はありません。しかしそれでも企業が備蓄に取り組むべき理由があります。


安全配慮義務と民事責任のリスク

条例上は努力義務ですが、企業には労働契約法に基づく安全配慮義務が別途存在します。これは使用者が労働者の生命・身体の安全を確保するよう配慮する義務です。


災害時に十分な備蓄がなく、従業員が無理に徒歩で帰宅して負傷した場合、企業は安全配慮義務違反として損害賠償を請求される可能性があります。つまり条例に罰則がなくても、民事上の責任は発生しうるのです。


企業の社会的責任と信頼の獲得

現代の企業にはCSR(企業の社会的責任)が求められています。従業員の安全を守り、災害時に地域社会に貢献する姿勢は、企業の評価を高める要素です。


十分な備蓄体制を整えている企業は、従業員から「会社が自分たちを大切にしている」と感じてもらえます。これは従業員満足度の向上や離職率の低下にもつながるでしょう。


また取引先や顧客からも「この会社は危機管理がしっかりしている」という信頼を得られます。BCP策定や防災対策は、企業選定の基準の一つとなっているのです。


事業継続・早期復旧への投資

備蓄への投資は、事業継続のための必要経費と捉えるべきです。災害発生時に従業員の安全が確保されていれば、混乱が収まった後すぐに事業を再開できます。


一方、備蓄がない企業では従業員が出社できない、あるいは出社しても体調不良で業務に支障が出るといった事態が想定されます。競合他社よりも事業再開が遅れれば、顧客離れや売上減少といった損失につながるでしょう。


備蓄は「コスト」ではなく「投資」です。いざという時に事業を守るための戦略的な準備として位置づけましょう。


備蓄以外に必要な帰宅困難者対策

備蓄以外に必要な帰宅困難者対策

備蓄品の準備は帰宅困難者対策の重要な柱ですが、それだけでは不十分です。一斉帰宅抑制を実現するには、他の要素も合わせて整備する必要があります。


施設の安全性確保と耐震対策

従業員を施設内に留めるためには、その施設が安全でなければなりません。まず建物の耐震性を確認しましょう。昭和56年6月1日以前に建築された建物は旧耐震基準で建てられているため、大規模地震で倒壊するリスクがあります。耐震診断を受け、必要に応じて耐震補強工事を検討してください。


オフィス内部では、書棚やロッカーなどの家具を壁や床に固定する転倒防止対策が必要です。窓ガラスには飛散防止フィルムを貼り、照明器具も落下しないよう補強します。こうした対策により、地震の揺れによる負傷を防ぐことができます。


安否確認・連絡手段の整備

災害発生時、従業員が落ち着いて職場に留まるには、家族の安否を確認できる手段が不可欠です。企業は安否確認システムの導入や、災害用伝言ダイヤル(171)の活用方法を従業員に周知しておきましょう。


また企業と従業員間の連絡手段も複数確保します。携帯電話がつながらない場合に備えて、社内の連絡網や集合場所をあらかじめ決めておくことが重要です。


事業所防災計画への明記と従業員教育

帰宅困難者対策は、事業所防災計画に明記することが条例で求められています。施設内待機の方針、帰宅判断の基準、時差帰宅のルールなどを文書化し、全従業員に周知しましょう。


定期的な防災訓練も欠かせません。訓練を通じて「むやみに移動を開始しない」という原則を浸透させ、備蓄品の保管場所や使用方法を確認します。従業員一人ひとりが自分の役割を理解していることが、実際の災害時に冷静な対応を可能にするのです。


帰宅困難者対策の備蓄は今すぐ始めよう

本記事では、帰宅困難者対策条例における備蓄について解説してきました。企業は従業員1人あたり水9リットル、食料9食、簡易トイレ15回分、毛布1枚を基本として3日分の備蓄を準備することが推奨されています。


条例上は努力義務ですが、安全配慮義務の観点や事業継続の必要性から、実質的には全ての企業が取り組むべき課題です。備蓄は一度に完璧を目指す必要はありません。まずは現状の備蓄状況を確認し、必要備蓄量を算出することから始めましょう。


優先順位をつけて段階的に備蓄品を揃えていけば、予算やスペースの制約がある企業でも実現可能です。PREPROでは、企業向けの防災備蓄コンサルティングや備蓄品の選定支援を行っています。帰宅困難者対策や防災計画の策定でお悩みの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。


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